故きを温ね(17)日本橋

3月18日(月)、日本橋三越のライオンに初めて会いました。
そう初めてなのです。
これまで、地下から用事のある階まで直行するだけで済ませていましたから。

銀座のライオンくんのようなイメージを抱いて来ましたが、より重々しく、より淋しく……、
と思ったのは、風の強い、春塵が渦をなすような日だったからかもしれません。

近くににんべんの「だしBar」があるというので、今日はそこからスタートすることに。
交差点のはす向かいにある大きなビル(コレド室町)に入ると、すぐに「だし場」と看板があります。
おお、こう書いて「だしBar」ですか! おっしゃれ~。

透き通った黄金色のだしをふうふう啜りながら、ひとりの姐さまに報告しました。

  ご心配をおかけしましたが、次女、おかげさまで決まりました。

  え、決まった!? ほんと! よかったねえ。第1志望?

  そうなんです。驚いたことに! ほんまに何の奇跡か……。

天神さまにも浅草の観音さまにも、実はほかにも祠や鳥居を見るたびに、
お願いしてきた次女の大学受験が終わりました。
しかも、もっとも嬉しいかたちで。
内心、もう1年というやつを覚悟していただけに、
この先どちらを向いて歩けばいいのやらと、立ち尽くす気分でもあります。
もしかして急に綱を解かれた犬や、籠の扉を開け放たれた鳥って、こういう気持ちなのでしょうか!?

とりあえずライオン。次はだし場。と、ひとつひとつ数えるようにして、方向感覚を戻しましょう。

にんべんに隣接して、刃物の「木屋」もビルの中です。
時代の求める形なのだと思いつつも、昔の「御店(おたな)」に漂っていた湿った匂いが懐かしい。
ふるさとの家の、居間や台所に座ったときの空気の感じにすこし似ていた気もして。
もっとも私の場合、ふるさとの家はもうありませんから、よけいにそう思うのでしょう。

さて「日本橋」は町の名前であり橋の名前です。
「町の名+橋」が橋の名となるよくあるパターンと違って、「日本橋」橋とは言わないのですから、単に「日本橋」と言ったとき、町を指すのか、橋を指すのか、それは判断が難しい、などと変なことを考えてしまいました。

  日本橋獅子と麒麟と春塵と   正子

日本橋の柱には青銅製の不思議な生きものが鎮座ましましています。
傍らの説明書きによると、それは獅子と麒麟だそうで、たしかに、あ、なるほど、の顔つきです。

  吹き溜まる春の落葉も潮の香も  正子

それにしても風は一向に収まりません。
吹き飛ばされそう、と言いつつ、飛ばされませんでしたが、
俳句も散り散りなまま、まとまりませんでした。

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そんな中、はっと目をひいたのがこの桜。
小さな交番にかぶさるように、細かな花を震わせていました。

  魁けて交番前のさくらかな   正子

                                     (正子)


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# by shinyurikara | 2013-05-23 14:30 | 故きを温ね  

故きを温ね(16)ふたたびの湯島天神


2月25日(月)、梅の湯島天神に参りました。
去年の七五三に来合わせたときには菊花展をしていたなあ、と思いつつ、
日の当たっていそうな夫婦坂からアプローチ。

今日の夫婦坂も日だまりでした。
メトロの出口からいちばん近く、上る段数も少なくてお薦めです。
ただやはりここは裏口なのでしょう。
正面から入った感覚が必要なときには、向きません。

いろいろありましたが、わが家の次女は、本日二次試験の日を迎えました。
朝、弁当をつくって最寄りの駅まで送って母の仕事を終え、ちょうど湯島でという吟行会にやってきたのです。

  送り出す子に日が眩し大試験   正子

本当は大試験ではなく入学試験ですが、俳句の上ではそういうことに。

  白梅や天神さまに願あらた  正子

境内の絵馬の山を見るにつけても、この期に及んで合格をお願いするのは図々しい気がして、
しっかり向き合えますように、と手を合わせました。

25日は天神さまの縁日。梅祭開催中でもあって、なかなかの人出です。
御礼詣りの皆さま、おめでとうございます、という声も聞こえてきます。

  白梅に御礼まゐりの人出かな   正子
  日だまりに老若男女受験生

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せっかくの湯島の白梅に添えられた禿頭のようなものは、どうやら私の指のよう。
例によって携帯で撮っていますが、眩しい日には携帯の画面がよく見えません。
おおよその見当で撮って、あとで何の写真かわからなくなることはままあるのですが……。

今日の境内は、この一幹のみがほぼ満開。
よく晴れた、風の冷たい一日でした。
                                     (正子)

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# by shinyurikara | 2013-03-02 17:55 | 故きを温ね  

故きを温ね(15)霞ヶ関

2月11日(月)建国記念日。
休日の霞ヶ関へやってきました。

私は東京メトロ千代田線で参りましたが、霞ヶ関駅で降りたのはほんの数名。
地下道を歩く人もほとんどいません。

3Aの出口から出ると、「霞が関跡」という標柱がありました。

  「跡」って?

傍らの解説によりますと、昔々関所があり、雲や霞の向こうに景色を眺めることができたので、この名がついたのだそうです。ただ、確かなのは武蔵野国にあったことだけで諸説があり、ここだと確定しているわけではなさそうです。『江戸名所図絵』の「桜田御門の南、黒田家と浅野家の間の坂をいふ」云々に従うと、ここらあたりになるようですが。

物心がついて以来、霞が関=中央官公庁街以外に考えたこともありませんでしたが、
いたずらに関の名がついていたわけでもなかったのでした。

  関ありしあたりを深く霞むなり   正子

歌川廣重の描いた「霞がせ紀」には、海が見え、凧がいくつも揚がっています。
今はもちろん海も遠くなっていますが、見えるのはビルばかり。凧などあり得ません。

  海つ方とふ春の空まぶしみぬ   正子

今から20年ほど前、「藍生」の連衆が吟行企画でここを訪れています。
記録をひもときますと、当時はお濠に黒鳥がつがいで棲みついていたようです。

  鴨翔ちて黒鳥のまた相寄れる  黒田杏子

という主宰の句もあります。
さすがにそのときの黒鳥はもういないでしょう。
が、子孫に期待してお濠を覗いてみることにしました。

それにしても皇居は広い。行けども行けども景色が変わりません。

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お濠は静かでした。
鴨の姿も、さがしてやっと数羽。

  雲に入りしや白鳥も黒鳥も  正子

いささか邪道ながら、「鳥雲に入る」のつもり。
もっとも、かつての黒鳥しかり、お濠の水鳥は帰らないそうですが。

日比谷公園に入ると、奥へ進むにつれ、
東京中の雀が集まってきているのではないかと思えるほどの雀に遭遇。
雀だけではありません。鵯も椋も、鴉も鳩も。みんなつややかで、のびのびしています。
片足のない鳩ですら、そそけた羽根をしていません。
ただ、人の食べ物を拾い食いして肥っているようでもあり、生活習慣病が心配です。

風もなく、うらうらとした天気に、噴水のあたりで思わず寝入りそうになっていますと、女子高生の、

  きゃあ~、なんでこんなに雀がいるのぉ

という声が。
本当だ。ベンチの後ろのヒマラヤ杉の下枝に、鈴生りと言いましょうか、むずがゆいほど雀が生っています。

立ちすくんでおりますと、雀らは次々に地を覆う蔦の葉の上に。
あまりに多くて、おしくらまんじゅうをしているように見えるのですが、
するりするりと蔦の下にもぐっていってもいるのです。

あ、中から椋が飛び出しました。ホバリングした後、再び中へ。
んーー、ちょっとめくってみてもいいでしょうか……。

  逃水を追うて雀のお宿まで   正子

いつぞやの亀のように、またしても写真を撮りそこねました。
しかたないですね、雀のお宿ですから、。
                                      (正子)

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# by shinyurikara | 2013-02-18 11:48 | 故きを温ね  

てくてく武蔵野(5)浜町から浅草へ

1月23日(水)。
『武蔵野探勝』をたどる会の初吟行です。

都営新宿線の浜町駅改札を出ると、

  おや、早いですね

と言いたそうな顔つきのHeroさんが立っていました。
以前浦安へ行ったとき、私は乗り継ぎに失敗して5分遅刻したのです。
でもその次に川越へ行ったときには30分前に着いて、珍しくHeroさんより早かったし、
遅刻は今のところその1回だけ(のはず)なのですけどね……。

今日の予定は、浜町公園から両国を経由して浅草まで。
最近参加人数が増えて、ファミレスに飛びこみで句会をするわけにはいかなくなってきました。
句会場を確保できたのが浅草なので、少しばかり長めの道中が予定されています。

3名ほどが時刻になっても現れないので、もしかすると、と公園方面への階段を上りますと――、

  あ、やっぱりみんな、中にいたんだな
  僕たち、寒いところで待っていたのに

その割ににこにこしているのは、通りかかった焼藷屋さんで「買物」をしたというYamaさんです。

Yamaさんは現役のビジネスマンです。
会社には休暇届を出して今日はれっきとした休日なのですが、
急な電話が入っても対応できるようにと、背広にネクタイの(吟行らしからぬ)お姿でのご参加です。

  初句会仕事を抜けて来た男   正子

ビルになってしまった明治座をちらりと見て、浜町公園へ。
入口すぐの広場では、なんと凧揚の真っ最中です。
80年前、虚子ご一行がやって来たときにも、「放心するほど」「夥しい凧」が揚がっていたと、
吟行録にあります。

〈字凧、絵凧、奴凧、鳶凧、虻凧、蟬凧、飛行機凧、こんな色々の凧がひよろひよろと揚り、飈々と揚り、翩翻と揚り、ふらふらと傾き、ぐるぐると廻転し、ペカペカとひるがへり、糸は縦横に空をわたり頭上を掠め、顔の前を横ぎり、子供等は駆けり、転び、寝そべり、男の子も居れば、女の子も居り、大人も居れば、相撲取も居り、そしてみんな凧に関心をもつてゐるのだ。(山口青邨)〉

凧揚なら浜町公園という伝統ができてしまったのかも。

  集まつてきていろいろの凧(いかのぼり)  正子
  子どもらに大川端の凧日和

今日来ていたのは、どこかの幼稚園の子どもたちでした。
ビニル袋に紐をつけた凧から、竹ひごの骨に和紙を貼って絵を描いた凧まで、全部手作りです。
糸がこんがらがってしまったり、芽吹き始めた枝にひっかかったり、
あたりは蜂の巣をつついたような音に満ち満ちていました。

  いかのぼり貸しておくれよとも言へず  正子   
  揚げなほす凧に救急絆創膏   
  子どもらの手作り凧の空低し

ゆるやかな空気の中を墨東へ渡り、両国へ。
ふっと佳き香りがすると、お相撲さんが近くを歩いていて、よそ者の私たちはその都度どきどきするのですが、
町の人たちは皆、当たり前の顔をしている不思議な空間。

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ゆっくりしたいところですが、タクシーに分乗して浅草へワープ。
浅草には先週の雪がまだたっぷり残っていました。

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  え、うそ、雪!? 

と、すぐに蹴りに行ったのは、湘南にお住まいのSatoさん。
お宅の近くには、かけらも残っていないのですって。
そういえば、ここより少し南というだけですが、浜町にも雪はありませんでした。

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句会を終えてもう一度戻ったら、ライトアップされていました。
昼間の浅草寺しか知らなかったな。
夜の観音さまに、もう一度わが家の受験生をお願いして、帰ることに致しましょう。

                                                (正子)

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# by shinyurikara | 2013-02-17 19:20 | てくてく武蔵野  

故きを温ね(14)浅草


12月21日(金)冬至。
賑わいの戻った浅草にやってきました。

仲見世をまっすぐ抜けて、まずはお詣り。
実はここは今から数十年前(と書いてから驚いています)、田舎から出て来て母と合格祈願をしたところ。
なにやらゆかりを覚える観音さまなのです。

先回の天神さまのうぐいすは、毎朝次女の枕の下で鳴いてくれています。
ちゃあんと起きてくるんですもの。さすがの御利益です。
観音さまには、残りの数か月、受験生活をまっとうに送れるようお願いすることにしましょう。

それにしても今日は寒いからでしょうか。
境内に鳩の姿が見えません。
私も句帳を取り出すのがなんだか億劫です。

  まれびとを吸ひ極月の花屋敷   正子
  振売もいでて浅草年の市
  しぐるるや六区通りにさしかかり

かつて浅草六区と呼ばれた界隈には、六区通りと標識を立てた小綺麗なストリートが出現していました。
歩きやすいですけれどね。

浅草公会堂にさしかかると、白菊の花籠が目に入りました。

  あら、どなたかお亡くなりに?

公会堂前の床には有名人の手形がはめこまれています。
ずらりと並んだ手形。
1つずつ見ていくと、手形なのか、その人自身なのか、わからなくなってきます。

その白菊は、小沢昭一氏の手形に添えられていました。

  またひとつ故人の手形霜の菊   正子

待ち合わせの雷門の方角へ、ぶうらぶうらとシフトしていきます。
鬘や踊の衣裳、刀剣、刷毛、古時計、江戸切子、……それにしても随分といろいろな物が売られているものです。
中にこんなものを発見。

  討入の衣裳一式年の市  正子

句会に出したら、面白い評が得られました。

  年の市だから、討入はもう終わっているわけでしょう。
  あ、古着だと。
  行きそびれた誰かが、もういらねえ、とばかりに。

こういうやりとりこそが句会の醍醐味でしょう。

久しぶりに岐阜からいらしたAneさまは、今朝は5時起きでいらしたとか。
枕元にご主人がぬうっと現れ「おい起きろ」。駅まで送ってくださったのだそうです。

  名古屋で新幹線に乗り込むころにようやく夜が明けてきてね。

わかるわかる。私にとっても通い慣れた道でしたから。

  新幹線乗つて冬至の朝ぼらけ   正子

                              (髙田正子)

                    ♪
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# by shinyurikara | 2013-01-05 13:13 | 故きを温ね